今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日


早島妙聴住持道長

道家道学院学長
一般財団法人日本タオイズム協会理事長
世界医学気功学会副主席

日本道観創設者、早島天來のもとで31年来修行をし、実地で、導引術、動功術、洗心術の修行を重ねる。日蓮宗身延山にて修行し、僧侶として教師資格を取得。1999年6月、日本道観副道長、道家 <道>学院副学長に、2017年2月、日本道観道長、道家<道>学院学長に就任。
2004年、嗣漢天師府第六十四代より道士の允可を受け、六十四代の嗣漢天師府顧問に就任。2010年、世界医学気功学会副主席に就任。
2013年、一般財団法人日本タオイズム協会設立、理事長に就任。

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

三ヵ月ぶりの北京行き

3.11の東日本大震災のため延期されていた中国への出張は、やっと5月16日に実現しました。震災後は日本道観総本部の大阪への早急の移転があり、そして会員さんへの対応に全力を傾け、さらに今年から予定を増やして、妙瑞道長の講座を大阪、東京、福岡で開いていただけることになったので、道長とともに、大阪を拠点としてあちこちでの講座に走り回っていました。このため、以前より日程が忙しくなり、中国行きが延期になっていたことも意識にのぼらないほどでした。
 そんな中で、毎日、北京事務所で頑張って翻訳をしてくれているバイト生から、震災を気遣う温かいメッセージを受け取り、そして「先生、次はいつ来るのですか?」という問いかけもあり、まだまだ国内をなんとかしてから、という硬い考えをやめて、「中国へ行ってきます」と道長にお伝えしたのですが、それは震災から一ヵ月半ほど過ぎてのことでした。
 そしてこの原稿を書いている今は、間もなく三ヵ月が過ぎようとしている時期ですが、おそらく私たちの心の中では、3.11の大震災がまだ昨日のような気もする一方で、もっともっと長い年月が過ぎたような気もします。

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

北京での共同研究

今回の北京行きには、3月3日の天來宗師御生誕100周年の記念に出版した『定本「老子道徳経」の読み方』を持参して贈呈させていただくことが、とても大きな意味をもつことだったにもかかわらず、3.11以前の出来事がもう大昔のことのような気がして、出版したばかりの『老子道徳教の読み方』を持参できなかったことが、一番の失敗でした。
 到着してすぐに、そのことに気づいたのですが、幸い妙聴が共同研究のために他の書物といっしょに一冊、自分用の本をもっていっていましたので、それを皆さんに見本としてお見せしながら、「地震で思考が飛んでしまったようです。大失敗です。本当に申し訳ありません。もうずっと前に出版し、みなさんにはお渡しできていると思い込んでおりました」とお詫びを繰り返しました。

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

大震災を越える、これが修業のメッセージ

林教授は優しく微笑みながら「そんなことは心配ありません。思考が飛んだのではなく、宇宙と一体となって修業が進んだのではないですか?おそらくここで修業も大きく前進されることでしょう」と言ってくださいました。
 そしてなんと林教授は、日本の震災を気遣いながら、震災で北京に行かれなかった三ヵ月の間に、共同研究の出版予定の本の原稿の重要な部分をほとんど書き上げて下さっていました。
 本当にこの震災によって、天來大先生からの修業の大きな課題とメッセージを、妙聴の前につきつけられたという思いがしてなりません。
 そしてこの震災では、地震、津波、原発事故と、災害があまりに大きかったので、小さな、あれこれをどうしよう~などという思いや執着はまったく吹っ飛び、心はより力強くなり、いろいろな執着から自由になりました。
 M9という途方もない大きな地震から、エネルギーを得たのかもしれません。
 すべての現象が、この天地自然の理、法則に添っており、何があっても、それに添って生きることが無為自然であり、それが私達タオイストの生き方なのですね。

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

タオイストとしての志

そして今、「私たち天來大先生の弟子は、この天來宗師御生誕100周年の3月に起こったこの大震災を、より深い修業への大きな糧(かて)として、本当のタオイストとして強い決意をもって、これから一生をかけて磨きあげてゆく時に来ているのだ」、そう確信したのです。
 このように考えてみると、今回の大震災は確かにとても悲惨で、つらい出来事でありますが、この地震のエネルギーが私たち日本人に、現代人が忘れかけていた無為自然の道、そして宇宙と調和する生き方に気づかせ、無為自然の宇宙の破壊を進めるのでなく、調和しながら幸せに生かされてゆく道への方向転換をするための、人生の大変革のエネルギーを与えてくれているような気がします。
 したがって今は、その感覚をあやふやなものとして消耗してしまわずに、しっかりと意識を持って、宇宙の法則に添った生き方への大きなステップを、まさに踏み出す時なのではないでしょうか。

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

四川省も美しく甦った

中国に滞在していたその日は、四川省の大地震からちょうど三年たった、5月12日だったのですが、今では四川省は完全に復興し、それ以上に新しい都市として大きく発展していると報道されていました。四川省はとても貧しい地域だったので、被災しなかった各省が政府の方針に沿って競って協力をし、手を差しのべてきたということで、経済は発展し 街はきれいになりました。すばらしいことです。
 「一党独裁は、こういうときはとても便利でうまくいきます」
 初日にお目にかかった首都師範大学の李教授も、笑いながらおっしゃっておられました。
 日本の東北も、新たな街づくりが進み、皆が楽しく過ごせる明るい未来が一日も早くやってくることを、心から祈りたいと思います。

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

今回の大震災は、これが最初でもなくこれが終わりでもない

林教授とお話していたときに、こうおっしゃっておられました。「今回の大震災は、あまりにも大きな被害をもたらしましたが、これは終わりでもなく、また始めでもないのです。このような事は以前もあったし、またこれからも人類がこの大震災に学び、成長しないかぎりは、もっと大きな災害が人類を脅かすことでしょう」
 そして「中国でも、大河をせき止めてたくさんのダムを人為的に造ったことにより、本当に美しかった街がまったく見る影もなくなってしまったということがあります。河の流れなどを無視して、勝手に人間がダムをつくる。そうすると、自然の気の流れが変わり、美しい景色も、街もなくなってしまうのです。残るのはただ人工的な街だけなのです」、そうおっしゃった林教授に「人間でもそうですね。この腕には血管があり、血液が流れて腕を養ってくれているのに、その血管を勝手にあちこち止めたり動かしたりしたら、腕は腐ってダメになってしまいますよね」とお話しすると「そうです、その通りなのです。それを皆気づいていないのです。大昔の人がすでに知っていたことを今の人は気づかない」と、たいへん残念そうに話されていました。
 ですから、これからも一層研究を深め、古代の人の叡智、智慧を勉強し、伝えてゆかなくてはいけないのです。林教授との共同研究の目的はそこにあります。そして今取り組んでいる課題は「導引の歴史の研究」ですが、次には「老子」に取り組みましょうと、すでに資料を集め、少しずつ話し合いが始まっています。
 ますます真剣に研究に力を注いでくださっている林教授に、心からのお礼をお伝えして、また来月に再会することを約束したのでした。

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

老子の考えかたとは

天來大先生の『定本「老子道徳経」の読み方』には次のように書かれています。
――この老子の中核を成すものが「無為自然」の思想である。これは「宇宙の現象には、人の生死も含めて、必然の法則が貫徹していて、小さな人為や私意は入り込む余地はないのだ。」という考えが基本になっている。つまり、人間などというものは、宇宙から見ればゴミのような小さい存在であり、人生は人の力ではどうにもならない自然の一コマに過ぎない。
 しかし、人間はそういうこともわからずに、さまざまな我執に振り回されてあくせくしている。人は生まれる前は“無”、そして死んでしまえばまた“無”に帰るわけで、自分のものなど何もない。これに気づき、くだらない見栄や欲を捨てれば、人生はもっともっと楽しくなる。これこそが人間として最高の生き方であるという考え方だ。――

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

今、最も必要とされる無為自然の生き方

今回の未曾有の大震災や、予想をはるかにこえた津波、そしていつ終わるともわからない悲惨な原発事故の、未来に続く被害を思う時に、その答を出せるのは、この無為自然の思想、タオイズムだけであることに気づくのです。
 この災害の悲しみをどこにぶつければよいのか、いったい誰が悪いのか、どうしてこんな事になったのか――すべての答は「道」にあり、そこに答を見いだすことにより、また私たちは勇気を持って前に進んでゆけるのです。
 この宇宙の、すべての自然現象は 天地自然の法則、「道」に添っているのです。人間の力なんて小さいものです。それを過信して、いつのまにかこの地球で横暴な暴君になってしまっている人間。いまこそ、この生き方をしっかりと見直す時に来ているのです。

今こそタオイズムの哲学を 2011年5月16日

日本道観にある江戸時代の「老子道徳経」

日本道観に、天來大先生の頃から現在に至るまで集まってきている、江戸時代に日本で出版された、さまざまな「老子」(「老子道徳経」)の解説本をご紹介しましょう。
 この中で二番目に掲げた『饗庭東庵解釈 「老子道徳経會元」』は、医者の饗庭(あえば)東庵が解説をしている「老子」です。
 饗庭東庵とは、曲直瀬(まなせ)玄朔(げんさく)の門人で、古典医書にたいへん造詣の深い医者で、運気学説に精通していたといわれ、江戸中期の医学に影響を与えた人だといわれています。林教授は江戸時代の著名な医者が「老子」を読み、解説書を出版していることはたいへん興味深いといわれていました。
 当時は江戸時代ですから、まだまだ導引医学も失われずにいて、中国からの医学が主流であった時代です。だとすれば、中国の医学の基本思想、哲学が「老子」に通じることは当然です。そう考えると、たいへん面白い資料であるといえるでしょう。
 天來大先生が『定本「老子道徳経」の読み方』を書かれたように、江戸時代のお医者様も、老子に語られている真理を求めて、一字一句ひもといていったのだと思うと、なにかとてもシンクロするものを感じます。そして今、私たちがそれを目の前にしているのです。
 この大震災を越えた日本人が、そしてその脅威を前にした世界の人々が、今、最も必要としている哲学は「老子道徳経」の無為自然の宇宙の大法則を解いた哲学であります。だからこそ、一人でも多くの方に、今こそ、その深遠な哲学を伝えたいという熱い思いが湧き上がってきます。

日本道観
全国一丸となって、
今日も元気にタオイズム!
皆様と共に前進します。

早島妙聴

厦門・武夷山研究の旅 2011.07.12-15

中国成都道教文化祭  2010.9

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